火曜日, 11月 03, 2009

「マイケル・ジャクソン This is It」


同時代を生きていると言っていい、がしかし、彼の音楽を特段気をとめて聴くことはなかった。それはビジュアルにもかっこいい音楽で、ある時代はいつでもそこにあり、またその後もよく耳にしていた音楽だった。とは言うものの私自身と特別なつながりがあるわけではない、普通の「街で流れている音楽」だった。
彼が亡くなり、映像が再び画面に出始めた。それを今見直してみて、この人がどれくらいすごいダンサーだったかがよくわかる。
他のダンサーとは全く体の動きが違う。ただ足をそろえて(「気をつけ」のように)立った、ただそれだけの姿が決まっていて、かっこいい。
同じように「ただ立つだけで決まる」ダンサーは一人しか知らない。それは、今は亡きフラメンコの鬼才、アントニオ・ガデスだ。「カルメン」や「恋は魔術師」で見た彼の姿は、踊りが全く異なるにもかかわらず、マイケルジャクソンと強く連想がつながる。
二人のその凄さがつながった時、人生で初めて、マイケルジャクソンを見てみたいと思った。そしてそこに「This is It」があったのだ。

見始めていきなり掴まれる。オーディションに現れた世界のダンサーたち。涙ながらに彼へのあこがれと今の自分を語る彼らの姿から、彼らにとってマイケルは神なのだと、すぐにメッセージが伝わる。
基本的にはリハーサルをつなぎ合わせた映像である。しかしそのリハーサルは念入りであり、そのものが完成品のごとくであり、音も含めて見て聴く価値が十分にある。すばらしい映像作品だと思う。マイケルは真摯であり、プロフェッショナルとして冷静であり、心遣いがある。そして彼が本物の音楽の才能持つ人であることもわかる。
そしてそれがリハーサルだからこその雰囲気もある。つまり我々観客は「中に」いるのだ。我々は観客が見るようなフッテージを見ながら、実はマイケルと行動を共にしている。そこのところの親密さが、不思議な暖かさをもたらしている。

映画の終わりに誰からともなく拍手が生まれたのも、最近の映画館ではなかなか見ない光景だった。

見る価値のある映像である。お薦めです。誰にとっても。