土曜日, 5月 02, 2009
トレチャコフ美術館展「忘れえぬロシア」
同時期に西洋美術館で開催されていた「ルーブル展」には、もう一つ惹かれるものがなかった。デカルトの肖像画と、以前にも観たことのあるジョルジュ・ド・ラトゥールと、カルロ・ドルテの宗教画がよかったかな、という感じだった。
西洋美術館で企画展が外れた時は(もちろんそうでなくとも)常設に行くのがよい。あそこの常設は本当によい絵が多く、それだけでも十分に満足できる。今回もそちらに入ったのだが、何か一つたりない。あの天井の高い部屋はどこへいった? ということで館内の案内の人に聞いたところ、それは新館で現在は休館中とのこと。なるほど。どこかで見たことがあると思ったカルロ・ドルテは、こちらの常設に2点があったのだった。
そしてBunkamuraへ行った。トレチャコフ美術館展である。
20年以上も前にモスクワに行った時に、この美術館は休館であった。そこに何が収蔵されているかをよく知らなくて、同じツアーの女性がレーピンを観たいのだ、と話していたのを思い出した。
それもあって、行ってみることにした。
「Unforgettable Russia」と題された展覧会。行ってみるとそれはまさしく忘れ得ぬものになった。
実業家パーヴェル・トレチャコフがほぼ一人で集めたという、ロシアの優れた絵画たち。
そこには、なくなるべきでなかったもの、いま一番あって欲しいものがあった。シンプルでナチュラルな美しい風景。農奴と貴族の二層社会で、共産革命さえ起こして変えられなくてはならなかった場所には、しかしこういう美もあったのだ、と、これをなくさすに世界が美しくいられる方法はないのか、と考えさせられるのであった。
懐かしいネヴァ川の風景。ロシア的民族衣装そのままの鳥追い。楽しげな食事の後の語らい。ターナーのような風景画。ロセッティのように耽美的なクラムスコイの少女。見覚えのある柄のキルギスの鷹匠の衣装(2007年にパミール高原まで行った時に、こんな図柄の民族衣装を見たことがある)。幻想的でクールでモダンな月夜のエルプルース山。印象派のようなレヴィタンの農村風景。シド・ミードのデザイン画の様なアルヒーホフの「帰り道」。レーピンの数々の肖像画。そしてロシアのモナリザ、クラムスコイの「見知らぬ人」。その他数々の美しい風景画の数々。
新しい宝を一山発見した感じがした。お薦めである。