月曜日, 11月 12, 2007

富山の美術館たち

仕事の移動日で富山市内の美術館をめぐった。

事前にリサーチをしており、富山市内にはミュージアムバスが走っているとのこと。

まずは空港からのバスを宿近くの富山市郷土博物館で降りて、中に入った。入り口でミュージアムバスの通行証となるパンフレットをもらう。これに日付入りスタンプを捺してもらうと、バス通行証になる。こちらは富山城を中心とした、マルチメディアを使った展示と、城の天守閣から富山市内を俯瞰することができる。

同じ敷地内の佐藤記念美術館では、東京国立博物館所蔵の広田不孤斎コレクション展が行われていた。発色の鮮やかな三彩など、とてもクォリティの高いものが並んでいた。どこかの新聞社の人が取材に入っており、展覧会の感想などを客に聞いていた。
ここの二階には「柳汀庵」という、移築された茶室がある。中には入れないが、躙り口から覗くことが出来る。二畳台目の席だが、なぜか点てた茶をどこに出すのかよくわからなくなった。パズルのような感じ?であった。金森宗和の指導になるものとのこと。もう一つの茶室が一階にあるのだが、バスの時間を気にしていたら見落としてしまった。

ミュージアムバスは1時間に1台走っており、経路の各停留所に毎時間同じ分に着く。たとえば佐藤記念美術館のところに09時22分に着く場合は、10時22分にもそこにバスが現れる。もしもミュージアムバスだけで指定の美術館を見て回るなら、この1時間を基本に行動しなくてはならない。
バスに乗り、次に入ったのは水墨美術館だった。

水墨美術館は、市内から西に出て神通川を渡り、川べりに南にいったところにある。広々とした敷地の中に、ゆったりとその美術館はある。
中に入るとまず常設展示がある。富岡鉄斎、横山大観、前田青邨、松林桂月などの作品をみることができる。これまで自分が目にすることが少なかった作家の作品が多く、とくに大観とはこういう人であったのか、と思ったり、青邨の全く作風の異なる3種類の作品をみて彼の多様さを感じたりと、非常に面白く観ることが出来た。
この部屋を出るとさらに、広々とした庭を見晴らす、かなり長い廊下の奥にもう一つの常設展示があり、そちらには下保昭の作品が集められている。その奥には茶室「墨光庵」がある。500円で薄茶をいただくことができる。
御薄を一服してから、外の庭に出てみる。広々とした芝生の庭である。今日は雨で、ざーっ、という音が周囲の生活雑音を消している感じがする。大きめの円柱によりかかり、何もない広々とした庭に向かって雨音を聞いていると、思い出したのは坂田靖子の漫画「誇り高き戦場」の最後のシーンの絵だった。アラン・シリトーの小説(映画化されている)を元にしたこの作品の最後で、再会した指揮者と元軍人は、音楽堂の外の広い階段のところで、ギリシャの神殿にあるような大きな円柱によりかかりながら、ひたすら雨をながめていたのだ。

再びミュージアムバスに乗り、富山駅前に戻った。食事ののちに近代美術館に行くことにしたが、バスの時間が合わない。そこで電車で行くことにした。富山地方鉄道の運営する路面電車である。富山駅前から南富山駅前行きの「本線」に乗り、運転手さんに聞くと、近代美術館へは西中野駅で降りればよいとのこと。運賃200円。降りる時に運転手さんが「そこの路地を入って、細くなりますがかまわずに進むと突き当たりにくるので左に折れて、さらに突き当たったら右に折れてまっすぐ行くと、美術館の敷地に着きます」と教えてくれた。言われた通りに行くと、確かに道はどんどん狭くなり、どうみても近隣住民しか知らない田舎の住宅街の路地のようなところを歩いていくことになった。それでも言われた通りに行くと、突如として目の前にでかい建物が現れ、そこへ道がたどり着くと、美術館の裏門であった。さすが。

近代美術館では「時の中で」という特別展が行われていた。富山の現代の作家による作品とのこと。これがなかなかよかった。くっきりとした作品がおおく、それぞれの作者が、それぞれに知り尽くした技法で表現すべきものを表現しているようだった。
二階の常設展に上がると、展示室内から大声が聞こえていた。初老の男性が、中年の男女二人にピカソやなにかのことを、NHKのテレビのことなどを交えながら大声で話し、わはははと大笑いしている。美術館の中のありさまとしてはとても異様で、そちらに近づかないように順路を逆に回り始めたが、円形の空間で仕切りのないところなので、大声はいやおうなくこちらに届く。とても作品を見ることに集中できなかったのでいったんそこを離れ、中二階の展示室に向かった。

中二階には、グラフィックデザインとしてのポスターの展示と、シャガールの聖書のリトグラフのシリーズ、そして瀧口修造のコレクション(彼のところに集まってきたモノたち)の展示が行われていた。どれも充実していて感心した。特に瀧口修造のモノたちは、以前に世田谷美術館かどこかで展観されたのを観損ねていたのだが、縁が呼んだのかこうして目にすることが出来たのは嬉しかった。

二階に戻るとさっきの騒がしい人たちはいなくなっていて、ゆっくりと作品群をみることができた。
ここにはピカソらから始まり、シュルレアリスムの旗手たちから草間彌生などまでの現代作家を、かなり包括的にみることができる。とてもよいものたちであった。

見終わると、中二階のカフェでスパークリングジュースを飲んだ。雨が一休みし、雲間から夕焼けが見えてきた。
あらためて、ここ富山の美術館の充実ぶりを思い、感心した。コレクションの内容も、それを収蔵するたてものもだ。なぜこんなに整備されているのか?、不思議なくらいだ。改めて調べてみたい。

楽しく、感心した一日であった。