なにやかやで関東を中心に歌舞伎好きの知己がたくさんできた。それにつれてチャンスを見ては幕見するようになった。
現代における歌舞伎の面白みとはなにか。いつ感じるのか。
それは、綱渡りの危うさを見事にこなしている役者と、その作劇のありさまをライブで知ったときだと思う。
別に「宙乗り」の話をしているわけではない。では何の綱渡りか。
それは、現代と過去を行き来する綱渡りであり、現代演劇的要素と古典様式美を行き来する綱渡りのことである。最先端を疾走する役者たちは、それらの間を自由に行き来する。パフォーマーとしては、現代演劇そのままよりも、はるかに危うく刺激的な演じ方だと思う。
観客である現代人の私は、望遠レンズで役者を捉えながら、現代の演劇がそのまま江戸の時代につながっているのを目撃する。能の如くに、離れた過去の形式がなぞられるのを見ているのではない。今のその場が、そのまま江戸の世界になってしまうのを感じるのだ。我々はタイムスリップに捉えられ、時代が置き忘れてしまった義理や人情に、そのまま出会う。そのありさまと、それが出来(しゅったい)するマジックに感動するのだ。
残念至極なことに、4月の片岡仁左衛門の「勧進帳」を見ることができなかった。成田屋の十八番とされるこの演目を、現代の役者である仁左衛門丈は、かの時代のストーリーとしてきっちりと解釈した弁慶で演じたそうな。どれほど興味深いものであったろうか…
観ていない自分にはこれ以上はなにも書けない。いずれテレビかなにかで見られることを期待したいものだ。