木曜日, 11月 15, 2007

「川瀬巴水」大田区立郷土博物館


川瀬巴水は明治生まれの日本画家・版画家である。初めは日本画を志したが、年齢などさまざまな事情で洋画を学び、その後鏑木清方のもとで日本画を学んだ。(清方に「巴水」という号をもらっている。)ある日同期の画家が展覧していた版画をみて「これなら自分にもできる」と版画の道に入り、大成した。
川瀬は画家になってからのほとんどを大田区で暮らしていて、今回、没後50年を記念して大田区立郷土博物館展覧会が行われている。

博物館は西馬込の駅から少し歩いたところにある。区立博物館で入場無料。巴水の作品は300点ほど(展示替えあり)が展観されている。
最初に32回摺りの版画の、全プロセスを並べた展示から入る。その後は大体において時系列に沿って作品が並んでいる。

回数の多い多色刷りのプロセスの面白さにまず惹きつけられる。色が重ねられているせいでくすんで見えるが、それがまた西欧絵画的なリアリティを版画にもたらしていて、ユニークな感じがする。
西欧的に見えるものと、古典的な、江戸の錦絵のような作品もあるが、私は後者が好みであった。

そして、描かれている風景がすばらしい。歌舞伎座が水面に映っている作品がある。昔はあのあたりに水路があった、ということだ。その他、江戸から連なるとても美しい風景作品がたくさんあって、昭和10年くらいまでは、東京でこんな場所がたくさんあったのだな、と感心する。我々はいかに短期間に多くの美を失ってしまったのか。

古き良き日本の姿がここに残っている。

全体的にある種の「静かさ」を持った作品が多く、私はC.V.オールズバーグのイラスト(ジュマンジ、西風号の遭難、白鳥湖、などなど)を連想した。

「東京の地元」のローカルな博物館で、こんなにも美しいものが見られたことが嬉しい。無料で誰でも、というカジュアルさもあいまって、信じられないくらいのことに思える。お薦めである。